正楽寺日誌 つれづれなるままに

よろこびのたねを
はぐくもう

2024.2

 小学校の卒業式のことです。

式が、答辞の時間に移っていきました。司会のM子ちゃんが、「まず、校長先生に」

というと、一人の女の子が立ち上がりました。

 「冬の寒い朝でした。私たちが朝のお掃除をしていると、いつものように、校長先

生がまわってこられました。そして『お湯をもらってお掃除していてくれるんだろう

な』とおっしゃり、バケツに手を入れられました。すると、冷たいお水だったので、

びっくりなさり、『霜やけにならないようにしておくれ』と、わたしの手を、両方の

掌で包んで、暖めてくださいました。あのお心は、一生、忘れないでしょう」

と、言ってくれました。別の女の子が立ちました。

 「校長室のお掃除のときでした。わたしが床を拭いていると、校長先生も、ぞうき

んを持って、寄ってこられました。そして、話しかけてくださいました。『Aちゃん、

この床板、いま一度に三百六十五回力を入れて拭くのと、一年三百六十五日かかって、

三百六十五回、力を入れて拭くのと、どちらがきれいになると思うか』と、尋ねてく

ださいました。わたしは、ハッとしました。校長先生は、きっと、しんぼう強く続け

ることの大切さを、わたしに、教えてくださったのだと思います。校長先生、中学生

になっても、お掃除だけてなく、続けてがんばることをお約束します。ありがとうご

ざいました」

と言い、私の側へやってきて、胸に、赤い造花を飾ってくれました。私自身、そんな

ことなど、忘れてしまっていたのでしたが、

「しっかり、ねばり強く頼むよ」

と、声をかけずにおれませんでした。

 担任の先生方にも、次々に、感謝のことばを贈り、胸に花を飾ってくれました。養

護の竹田先生の胸に花を飾ったのは、M君でした。

「竹田先生、ぼくが、きょう、卒業できるのは、先生のおかげみたいなものです。

ぼくは三年の終わりまで、先生方から『行儀が悪い』『キョロキョロする』と、いつ

も注意されておりました。そしたら、竹田先生が『ひょっとすると、腹の中に悪い虫

がいるのかもしれない』といって、便の検査をしてくださいました。そしたら、ほん

とうに、悪い虫の卵がたくさん見つかり、先生がそれを、退治してくださいました。

それから、おちついて勉強ができるようになったのです。先生、ありがとうございま

した」

と、先生の胸に花を飾った姿も、忘れられません。

 用務員の井田さんの胸に、花を飾ったのはN君でした。

「一時間目の勉強が始まってからでした。先生の用事で、おばちゃんの部屋にいっ

たら、おばちゃん、朝ご飯を食べておられましたね。先生から聞いたら、おばちゃん

は、毎朝、夜が明けないうちに起き、お掃除をしたり、お湯を沸かしたり、私たちの

ために用意してくださるんですね。そして、おばちゃんが、ご飯を食べられるのは、

私たちの勉強が始まってからになるんですね。おばちゃんは、校長先生よりも忙しい

のですね。どうか、おばちゃん、体を大事にして、後に残るみんなのために、よろし

くお願いします」 

と、胸に花を飾ったときには、井田さんも、とうとうこらえ切れなくなって、ワッと

声をあげて、泣いてしまいました。

 司会のMちゃんが、しきりに時間を気にしている様子でしたが、

「皆さん、まだまだ、言いたいことがいっぱいだと思いますが、時間が来てしまい

ました。Hさん、ピアノをお願いします。小学生として、最後の校歌を、心をこめて

歌いましょう。在校生の皆さんも一緒にお願いします。先生方も一緒にお願いします」

と言われ、卒業していく女の子の伴奏で、司会の女の子の指揮で、校歌を歌いました

ときには、感慨無量でした。

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